銀河釉 玉峰窯

焼き物に浮かぶ無数の星たち
世界を魅了する陶芸家の想い

2021.9.1

 

無限の宇宙や星空を表した「銀河釉

金属元素が結晶化したさまが、まるで夜空に浮かぶ無数の星のような表情を感じさせる、その名も「銀河釉」。

 

 

【銀河のオデッセイ-2003フィレンツェ栄光のネオ・ルネサンス展コスタンツァ・デ・メディチ芸術褒賞-】

 

 

従来の焼き物の手法を踏襲しながら、これまでになかった技法を生み出したのは、20代の頃から佐賀県武雄市で焼き物に取り組み、その豊かな表現力と高い技術で、海外から高い評価を受けている中尾哲彰さんです。

 

 

星々が浮かぶ夜空を焼き物で表現したい

 

 

 

実家は窯元で、子どもの頃から手伝いなどはしていたものの、家を継ぐ気はなかったという中尾さん。大学では、哲学科に進みました。

 

『自分の生き方を追求したい』と考えて哲学科へと進んだのですが、大学という場が、学問や研究の場ではなく『就職のための予備校』のように感じるようになったんですね。

そんなとき、実家に帰省して陶芸に取り組む父親の姿を見て、感動して。大学4年のときに中退し、その後は地元に戻り、焼き物の道に進みました。

 

銀河釉のヒントが生まれたのは、中尾さんが30代のころ。焼き物づくりに取り組んでいたあるとき、網膜剥離で入院。「また陶芸ができるようになるだろうか」と不安な日々を過ごしていたときでした。

 

病院のベッドで寝ているとき、ふと心のなかに無数の夜空の星が浮かんできたんです。退院できてまた焼き物の世界に戻れたら、夜空のような色を作品で表現したいと思って。

夜空から地球を見れば、国境も人種も見えないし、人はみな同じ。そういう世界を、焼き物で表現できないかと考えました。

 

 

国境や人種、言葉の壁を超えた作品づくり

退院後、中尾さんは釉薬(陶磁器の表面に付着したガラスの層)の研究を開始。世界中の文献を集めるなどして、地道に研究を続けました。

 

 

化学反応による色の変化で、金属の結晶が星空のように光輝く「銀河釉」にたどり着いたのは、それから約8年後のこと。従来の焼き物とは、一線を画すものでした。

 

 

 

 

長い歳月をかけるなかでも、決してあきらめようとは思わなかったと中尾さんはいいます。

 

自分がつくりたかった世界を表現できるまでには、むしろもっと時間がかかるのではないかと思っていました。文系だったこともあり、理系の知識を学んだり実験したりすることは簡単ではありませんでしたが、途中でやめようとは考えませんでした。

 

一日でも早く、自分が目指す星空や宇宙のような世界観を実現したい。その一心でしたね。

 

中尾さんは、作品にこのようなメッセージを込めています。

 

銀河釉を通じて、国境や人種、言葉の壁を超えて伝えたいと思っています。「民族や人種が違っても、みな同じ人間だ」というメッセージを、世界に発信したい。

 

地球や人類がこれまで歩いてきた歴史や、世界のいろいろな場所でさまざまな考え方が生まれたのはなぜなのか。多様性を認め合い、違いを克服し、異なる人種や思想の人たちが共存していくためにはどうすればいいのか。そんなことを、いつも考えています。

 

 

改良した窯で生み出される独自の色合い

中尾さんの作品は世界に受け入れられ、フランス、ロシア、オランダ、スペインなどにおいて数々の賞を受賞。渡航がスムーズだった以前は、中尾さんの作品に感銘を受け、会いに訪れる外国の方も多かったそうです。

 

 

【遥かなる長安-2001 モナコ日本文化フェスティバル モナコ公国名誉賞、2010 タイ王室ソムサワリ王女芸術賜杯-】

 

 

中尾さんは、日本と海外では、陶芸や陶芸家に対する考え方が違うと感じています。

 

海外の方は、作品をつくった作者がどんな人生観や哲学を持っているのか、どんな人物なのかを知りたいという想いが強いように思います。作者のことを知ったうえで、あらためて作品を評価してくれるように感じますね。

 

一方日本でも、下は高校生から上は80代まで幅広い年代の人が個展を見にきたり、ファンになったりと、中尾さんの作品は、日本でも確実に人々の心を掴み続けています。

 

 

現在は佐賀県武雄市で、事務や一部の焼き物づくりを担当する奥様の知佳子さんと暮らす中尾さん。ホームページやSNSなどを担当するのは、息子の真徳さんです。ろくろを使った制作は、すべて中尾さんがひとりで取り組んでいます。

 

 

【中尾哲彰さん・息子真徳さん・妻知佳子さん】

 

 

ろくろを使う作品は、回っている土のかたまりを引っ張ったりしてかたちをつくっていくので、いわば彫刻をつくるのに近いようなイメージです。

つくる人のセンスによってかたちやオリジナリティが全然違っていて、高い技術が必要になるので、父にしかつくれない世界観の作品だと思います

 

と、真徳さんはいいます。

 

 

 

 

ろくろでかたちにしたものは、素焼きをした後に本焼きをします。自分が理想とする色を出すために、ひとつの作品になるまでに、長いものでは半年ほどかかることもあります。

 

 

 

 

色を出すための窯は6つあり、窯ごとにガスの流れを変えるなどの改良をしています。これも、理想の色合いを出すため。一つひとつすべて同じかたちはなく、納得いく色が出ないときは、つくり直すこともあるそうです。

 

 

焼き物の文化を伝え続けたい

時代の流れもあり、いま、焼き物の業界は苦境に立たされ、新しく入ってくる若者も少ないといいます。同時に、きちんとした腕や技術を持つ陶芸家も減ってきているそうです。

 

 

一方で、焼き物を学びたいという強い信念を持ち、中尾さんのもとを訪れる人もいるそう。中尾さんはそういった人たちに対し、積極的に技術や知識を教えています。

 

焼き物の世界を目指す人に、自分が培ってきた技術や知識を伝えていかなければいけないと思っています。そうしないと、やがて焼き物という文化が滅びてしまいかねない。

 

お茶やお花の世界などもそうですが、いま日本にある文化の大半は海外から入ってきたものを改良して自国の文化にしたもので、日本独自の文化はほとんどないと思っています。

 

ですが、そういった日本の文化の魅力やよさは、今後改めて世界から注目されていくと考えています。私はたまたま焼き物という分野ですが、世界の平和や共存への願いを作品に込め、これからも自分の想いを伝えていきたいです。

 

ご自身の考えや信念をしっかりと持ちつつも既存の枠にとらわれることなく、時代の変化やさまざまな違いを柔軟に受け止め、作品に反映している中尾さん。

 

 

繊細な感性を持つアーティストでありながら、哲学者や研究者のような側面を持つ中尾さんが一つひとつ願いを込めて生み出す「銀河釉」の焼き物は、私たちの暮らしをより豊かに、やさしく彩ってくれるはずです。