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国産薬草から食のアップデート
新たな薬草文化を次世代へ
2021.4.30
食とは生の最期まで残る、最大の楽しみ
食べることは、誰しも人生死ぬ直前まで最大の楽しみ。食べ物は全ての人に共通する自分事です。
そう語るのは、食卓研究家であり、国産薬草を使った伝統茶を手掛ける「tabel」の代表、新田 理恵さん。
『食』という漢字は『人を良くする』と書きますが、一方で一歩間違うと凶器にもなりえます。
管理栄養士で薬膳国際調理師でもある新田さん。実家は大阪の市場でパン屋さんを営んでおり、周りには八百屋さんや鮮魚店が軒を連ね、幼少期から食材が身近にある環境で育ちました。
しかし、学生時代に突然お父さんが糖尿病で倒れ、その直後に友人から拒食・過食症であることを打ち明けられたといいます。
「大好きな食べものが、大切な人を苦しめるものになってしまうなんて、、」
そのことがきっかけとなり食に対する意識が変化し、大学では栄養学を専攻したという新田さん。
しかし栄養学を学びながらも、本当に大切なものを見落としているような気がしていたといいます。一人ひとり体質も違えば、その日のコンディションも違う。年齢や性別、体格や健康状態などが違うのに同じ栄養、献立でいいのか?と、健やかな食卓の本質を知り、一人ひとりをより良くする食事法を見つけたかったといいます。
様々な食へのアプローチを模索するなかで、大学でたった一度だけあった薬膳の授業。からだの循環や調和について理解していくうちに「薬膳って面白い!」と、どっぷり薬膳の勉強にのめり込み、中国の国際ライセンスである薬膳国際調理師を取得。そして実践をしているなかで、ある現実に直面したといいます。
その土地でしか出会えない、感動の薬草茶
実は日本では、ナツメや菊花茶などの薬膳に必要な薬用食材が手に入りにくく、ましてや国産のものは入手困難。日本で使用される生薬の約8〜9割が輸入品といわれています。
一概に輸入品が悪いわけではないですが、できれば「だれがどこで作っているのか」という栽培方法や生産者の情報を知り、安心して口にしたいものです。
そんな思いから「本当に日本に薬草はないのか?」と、はじめは興味本位で日本各地の農家さんを訪ねたという新田さん。当時は起業するとは夢にも思っていなかったそうですが、日本の風土に根ざした各地の薬草たちは、それぞれが新田さんの予想を超えた美味しさと、個性的な力を秘めていたといいます。
カキドオシとハトムギの茶葉
なかでも熊本県八代市で出会った「はすの茶葉」は、今まで飲んだどのはす茶よりも、まろやかでやさしい甘さがあり、飲んだ瞬間に感動して言葉を失ったほどだったといいます。
他の地域でつくってもなかなか同じ味は出せないことから、その土地にしかできない稀有さと尊さを感じ、薬草茶の新たな魅力に気づけた出来事だったそうです。
はすの葉茶
自然と農家さんと築く、サステナブルな関係性
そうした出会いが縁となり、新田さんが全国の農家さんと取り組むなかで大切にされていることは、相手の文化に敬意を持つこと。
『うちの村にはなにもないよ』という村にも、その土地にしかない魅力をその土地の植物から見出すことができます。
その土地にしか生息していない薬草などもあり、お茶を通して、『自分たちの町の誇れる新たな魅力を見つけられて嬉しい』という地元の方の声がとても嬉しいです。
そう優しく語る新田さんからは、農家さんとの良好な関係性がうかがえます。
そして、なによりも自然の恵みに敬意を払い、スピード感よりも自然や農家さんたちと無理のない規模感で取り組むことを重視にしているといいます。
それは新田さんの考える思いやりのペース。
多く採りすぎては来年またいただくことができなくなってしまうので、自然とのペースを大切に、植物とも農家さんともサステナブルな関係性でありたいです。
新田さんが訪れた石垣島
「正しさより調和」新たな薬草文化を身近に
「薬草」と聞くと、伝統的で難しそうな、縁遠いものと思われる方も多いかもしれません。しかし新田さんが大切にされているのは、あくまで現代での親しみやすい薬草文化。
正しさよりも調和を大切に、私たちが楽しめるかたちで、親しみやすい新たな薬草文化を伝えていきたいです。
2018年には「薬草大学NORM」というオンライン講座を開講し、薬草について学ぶ場を若い世代にも広められています。中にはマレーシアなど海外からの問い合わせもあるといい、日本の新たな薬草文化の予兆を感じずにはいられません。
そしてこの春から、大学院で食養生について改めて学ばれるという新田さん。
人生の有限である食事の中で、少しでも人々を良くする食卓を増やしたいと願っています。
そう語る新田さんの、人を良くする「食」への探求は尽きることはありません。