福光屋

瑞穂の国の酒、日本酒の
文化を担う老舗が続ける挑戦

2021.04.14

 

世界最古級・熟成期間50年の長期熟成酒「百々登勢(ももとせ)1970」を2021年に販路限定で発売する、金沢の老舗・福光屋。福光屋の酒造りは、長期熟成酒の取組みに留まらない挑戦の連続だ。

 

「空から謡(うたい)が降ってくる」という、庶民も能楽に親しんでいた金沢の文化度の高さを窺わせる表現がある。事実、多くの美術館や博物館が建ち並ぶ、緑豊かな通りを歩くと生活に文化が浸透しているさまを感じる。

 

1625(寛永2)年創業と金沢で最も長い歴史を持つ酒蔵、福光屋までは中心地からゆっくり歩いて20分ほど。福光屋の酒造りに欠かせない水は、金沢の南に位置する霊峰白山に降った雨が百年をかけて貝殻層をくぐり(太古の昔、一帯は海の底だった)、敷地内に掘られた深さ150mの井戸から汲み上げられる。

 

このミネラル分を蓄えた酒造りに最適な水があるため、福光屋は創業以来約400年間、蔵を移すことなく酒造りを続けている。※ちなみに、蔵前にある採水場は、「恵みの百年水」と呼ばれて開放されており、市内の飲食店なども汲みに来るという。

 

一般採水もできる「恵みの百年水」

 

福光屋の酒造り

杜氏(酒造りの最高責任者)の板谷 和彦さんに、5段階(米の準備→麹づくり→酒母づくり→醪(もろみ)づくり→醪搾り)からなる福光屋の酒造りを聞いた。

 

板谷 和彦さん

 

1.米の準備(精米・洗米・浸漬・蒸米)

福光屋の酒蔵は4階建て。上から下の階に酒造りのプロセスを配置しており、各段階の最適な状態を保ちつつ効率的に作業ができる仕組み。最上階でおこなわれる米の準備では、最終的に蒸した酒米で餅をつくり、その香りと手触りで蒸し具合を確認する。板谷さんは早朝、米を蒸す前に最上階の屋外にある社に参拝し、「今日も真面目に仕事をします」と誓っている。

 

2.麹づくり

蒸した米に種麹を振りかけ、麹菌を繁殖させる場となる麹室は酒造りのコアだ。室温30℃以上、湿度90%以上にもなる室内では、昼夜を徹した繊細な作業がなされる(最高峰の純米大吟醸を仕込む場合、100kgの蒸米に対して使用する種麹の胞子はわずか1g未満といい、米一粒に胞子45個を均一に付着させる技術が必要)。蒸米は温度調節や手入れをされながら約2日間で麹となり、ふっくらとした麹は口に含むと栗のようなほのかな甘さを感じられる。

 

種麹により蒸米は米麹となる

  

3.酒母づくり

酛(もと)ともいわれる酒母は、蒸米と水、麹に清酒酵母を入れ、培養させて育てられる。この酵母は、麹がつくり出したブドウ糖をアルコールに変える役割をもつ。早くから酵母の研究開発に取り組む福光屋の酒造りには自社酵母が使われており、保有する酵母は約300株にも及ぶ。こうしてできた酛1mlには、23億の酵母が存在する。

 

昔ながらの木桶で蒸米と米麹を入れる

 

フラスコで培養された酵母

 

高密度に酵母が培養され、次第に泡がたつ

 

4.醪(もろみ)仕込み

酒母に3回に分けて水・麹・蒸米を加え、醪を仕込む。この過程で米のデンプンが麹によりブドウ糖に変わり、酵母がブドウ糖をアルコールへと変える「並行複発酵」が起こる。タンクの中の米は大小の泡を発しながらつやの良い醪に仕上がってゆく。仕込みの期間は約20日で、板谷さんはこの発酵期間を「祈りと緊張」と表現する。

 

醪の発酵具合を科学的な成分分析と五感で確認

 

5.醪搾り

十分に発酵した醪を搾り、いよいよ瓶詰めへ。醪は生きていて、たった1日搾る日がずれるだけで味が変わるという。

 

袋に入れられ、搾られる醪

 

蔵内を案内してもらう間、板谷さんは「酒は造るものではなく、生まれてくるもの」と話してくれた。そのポイントを「米・水」、「微生物」、「金沢の風土・蔵」、「時間」、「人のお手伝い」と教えてくれた板谷さんは、自然の働きが特に大事、と言う。蔵の軒先に掲げられた杉玉やしめ縄も、酒造りの主役は人間ではなく自然であることを示している。

 

米と水だけの「純米蔵」

伝統ある老舗でありながら革新を続ける福光屋を説明するのに「純米蔵」は欠かせない。純米蔵とは、お酒を米と水だけで造る酒蔵のこと。「当たり前では?」と思われるかもしれないが、清酒生産量のうち純米酒構成比は23%(平成30年酒造年度・国税庁)しかなく、それ以外は醸造アルコールや調味料などが入っている日本酒である。

 

ちなみに、日本に酒蔵は約1400あるといわれており、その内約50蔵が純米蔵。1万石(一升瓶換算で100万本)以上の生産量の純米蔵は福光屋が日本初。醸造アルコールは米の1/10のコストで調達できるので、2001年に純米蔵宣言をした時には「福光屋は潰れる」と言われたそうだ。

 

また、福光屋は1960年に兵庫県の農家と契約栽培をはじめ、土づくりから酒米(山田錦)づくりに取り組んでいるほか、1980年代から醸造学や農学系の大学出身者を採用し、季節労働の蔵人から伝統の技を継承しながら進化させている。微生物と協働する蔵人は、サラリーマンではなくアーティストとのことだ。

 

これらの取り組みから、福光屋がいかに先進性があるのかがわかるだろう。すべては米と水からおいしい日本酒を造るため。福光屋の挑戦を、心から応援したい。