匠工芸
ものづくりは“心地づくり”
職人が憧れる旭川の家具工房
2021.6.2
若手職人が憧れる家具メーカー
「若手職人の憧れ」と呼ばれる家具メーカーをご存じでしょうか。
それは北海道、旭川に工房を構える匠工芸。大雪山を望む北の地で、手仕事にこだわり椅子やテーブルを中心とした木製家具を専門に作り続けて40年以上になる職人集団です。
そう呼んでいただけるのは有難いことですね。でも他と比べてうちが特別なことをしているとは思っていません。
そう語るのは、今回お話をお伺いした匠工芸専務の桑原 強さん。創業者であり代表のお父さまの義彦さんの、特注家具の製造から始まった匠工芸は、創業以来「代表から学んだことを伝統として繋ぎ続けている」といいます。
大雪山を望む大自然に囲まれた環境で、自然素材を使って仕事をする。このことから義彦さんが変わらず掲げているというのが「Natural and craft mind」。
木の温もりに、手仕事の温もりを掛け合わせることで、使い心地のよい家具づくりを守り続けているといいます。
匠工芸を見守る大雪山
「家具の街」と呼ばれる旭川
そんな匠工芸のある、北海道・旭川市は良質な木材が豊富に採れることから、「家具の街」と呼ばれています。
旭川の家具産業は、明治中期ごろに陸軍第7師団が置かれ、鉄道が開通し客車整備などのために木工場ができたことから、本州から建築職人が多く移住し、家具の製造が始まったといわれています。
現在では家具好きの間で「旭川家具」として、旭川市をはじめ東川町、東神楽町など近隣地域で作られる家具が、一種のジャンルとして親しまれています。
現在では北海道で製造される家具の6割が旭川産といわれ、市内には多数の事業所が存在し、日本の主要家具産地の一つとなっている旭川。そして3年に1度「IFDA」という国際家具デザインコンペティションが行われ、世界中から優れた木製家具の作品が集まり、デザインによる家具の可能性を広げています。
IFDAのために世界中から集まった木製家具作品
職人としての可能性に挑戦できる「若手職人の憧れ」
そんな「家具の街」旭川で、匠工芸が「若手職人の憧れ」と呼ばれるのは何故なのか。他の家具メーカーとの違いを、桑原さんは語ります。
うちでは職人が担う仕事の範囲が広いと思います。他のメーカーさんだと各工程の担当がいますが、うちでは塗装や椅子張りなどの専門部署以外は、加工や組み立て、研磨などを全て職人が行います。
会社の始まりが1から10までを担うオーダーの特注家具づくりだったこともあり、その体制が残っているんです。
そのため自分が今どこをやっているかが明確になり、品質判断もしやすくなります。
匠工芸では約9割の職人が国家資格である家具製作技能士をもち、品質保持のため会社としても技能検定の取得を推奨しているといいます。
このように一人のやることが多い反面、製作は10名弱のグループで行い、先輩が後輩に教えるという構造を残しているそうです。
練習はなく、実践のなかですべて学んでいく技能の世界。過去には職人からあがってきたデザインが商品化されるなど、「やりたいと思えばやれる環境がある」と桑原さんはいいます。
そして、職人の独立についても目安の年数などは設けず、やる気や熱意によって可能性が広いというのも、匠工芸に全国から若手職人が集まる理由なのでしょう。
品質機能の向こう側「幸せもの」な家具づくりを
家具づくりだけではなく、家具の修理やクリーニングも行っているという匠工芸。
クリーニングの希望に持ち込まれる家具には、使う人の歴史や想いが詰まったものが多いといい、桑原さんが職人時代に出会った家具たちも感慨深いものがあったと語ります。
とある机の天板だけの修理希望でしたが、どうみても素人がつくったガタガタの組み立てで、これを直して使うの?と思ってしまうような状態でした。
ですが事情を聞くと、亡くなったおじいちゃんが作ってくれた机だといい、どうにか使い続けたいとのことでした。
その言葉を聞いた瞬間、家具職人としての価値観が変えられたという桑原さん。
家具には品質機能以外にも、込められたものがある。「修理され使い続けられる家具は、本当に幸せもの」といい、「そういう商品をつくり続けていくことが匠工芸の使命だと思う」と力強く語ってくれた桑原さん。
左:修理前の天板 右:修理後の天板
使ってくださる方の人生にわたしたちの商品があります。例えばクルマも買い替えると思いますが、ひとつひとつのクルマの思い出が重なって自分の人生となると思うんです。そういった、その人の人生にとって語れる家具になれたらと思っています。
ものづくりの先にある「心地づくり」
厳選した素材選びにはじまり、約10項目に及ぶ強度テスト、そして空間に馴染む優れたデザイン。
職人の手から生みだされる椅子やテーブルは、こういった全ての過程を経たまさに一級品です。ですが、使う人がいてはじめてその家具の歴史がはじまる。
そのことから、「作っているのは椅子やテーブルですが、その先にある“心地”をつくっていきたい」と語る桑原さん。
匠工芸は大雪山が見守る工房で、今日も「家具」という名の「心地」をつくり続けています。