DD4D

ビールも人も、十人十色
個性を樽に注ぐ独立ブルワリー

 

Kriek(クリーク)」と聞くと、今でも甘酸っぱい懐かしい気持ちになる。私が学生時代ベルギーに住んでいた時に好きだった、チェリー味のビールだ。

 

jupiler(ジュピラー)」は、当時の友人達の顔や課題に追われた日々を思い出させる。大学の自動販売機に水よりも安く置いてあったのが、赤いラベルのこのビールだった。ベルギーではみんなそれぞれ好きなビールがあった。飲みに行けば100種類以上ある銘柄のなかからお気に入りのビールを選ぶ。

 

 

「とりあえずビール」なんて通用しない。それぞれのビールに個性とストーリーがあるのだ。

 

ビールの多様性を楽しむ 

 日本でも、飲んだことのない大人はいないんじゃないかというくらい、アルコール飲料のなかで圧倒的な存在感を放っているビール。それにも関わらず好きな銘柄やスタイルを答えられる人は多くない。

 

ワインや日本酒を選ぶときには、重めか軽めか、甘口か辛口か、など個人の好みやその時の食事とのマリアージュを考えて品種や銘柄を選ぶのに、なぜかビールは、いつでもどこでも「ビール」。のど越し爽やかでキレのある、淡い金色の飲み物、というステレオタイプなイメージが定着している。

 

それもそのはず、日本の大手ビールメーカーが販売しているビールのほとんどは、100以上あるといわれるビールのスタイル(種類)のなかでも「ピルスナー」と呼ばれるたった一種類のものなのだ。

 

そんな、「よくあるビール」とは一味違うオンリーワンの味と風味を楽しめるのが「クラフトビール」である。

 

 

クラフトビールとは、小規模ブルワリーで作られる、作り手のこだわりが詰まった個性豊かなビールのこと。最近はブリューパブと呼ばれるその場で作ったクラフトビールを飲むことができるパブレストランの数も大幅に増え、街中でも目にすることが多くなってきた。

 

そんな中で、常に質の高いユニークなビールを作り続けている注目のブルワリーが愛媛県松山市にある。

 

ビール業界でも話題の若手醸造家、山之内圭太さんが手掛ける「DD4D BREWING & CLOTHING STORE」だ。

 

アパレルショップに現れた話題のブルワリー

 

山之内さんは新宿にある人気ブルワリー「Y.Y.G. BREWERY」の初代ヘッドブルワー(醸造長)。立ち上げ直後からお店は多くのメディアに取り上げられ、もともと会社員だった山之内さんが20代で醸造長に大抜擢されたのも話題を呼んだ。

 

 

その後世界五大ビール審査会の一つに数えられるインターナショナル・ビアカップでも幾度となく賞を受賞し、実力を確かなものにしていった山之内さんが実家のある松山に戻って始めたのがこの「DD4D BREWING & CLOTHING STORE」だ。

 

地方にあるにも関わらず、今でも当時からのファンや評判を聞きつけた人たちがわざわざ遠方から訪ねてくる。

 

 

店を訪れてみると、その店構えに驚かされる。

 

山之内さんが新しく店を構えたのは、なんと20年以上続くアパレルのセレクトショップのなか。

 

おしゃれなシャツやバッグが飾られている奥に、普段はなかなか見ることのない大きなビールタンクがずらりと並び、壁からはビールタップがのぞいている。

 

 

そんな斬新な、しかし不思議としっくりくる心地よい空間で飲むことが出来るDD4Dのビールはどれも個性的でそれぞれに主張がある。まるでそこに並ぶ、セレクトされた一着一着の服のようだ。

 

常にわくわくさせてくれる場所

DD4Dでは、季節によって店に並ぶ服が変わるように、ビールも変わる。

 

ここではなんと1、2週間に1種類のペースで新しいビールをつくっている。愛媛の名産であるみかんを使った甘酸っぱいものや、コールドブリューしたコーヒーを入れた重厚感のあるもの、ココナッツミルクを使った甘く優しい口当たりのものなど、どのビールも意外性に溢れ、味を想像するだけでわくわくする。

 

 

中でもインパクトの強かった「Jalapeno IPA」を飲んでみる。あの青唐辛子ハラペーニョを使ったビールである。

 

グラスに注いでみると、その瞬間ふわっとハラペーニョの香りが漂いそれだけでメキシコの景色が脳裏に浮かぶ。

 

どきどきしながら口にしてみると、落ち着き払ったハラペーニョの風味が絶妙にビールに溶け込んでおり、思った以上に飲みやすい。決して辛いわけではないのだがしっかりハラペーニョの風味が感じられ、ついぐいっと飲み干してしまった。

 

個性豊かな精鋭たち

 そんな既成の枠にはまらない多様なビールを作っているのは、ビールとおなじく多様性あふれる4人。

 

 

山之内さんが展示会でたまたま出会って声をかけた、通訳のバイト中だったアメリカ人のマイクさんは、実はパリで小さなブルワリーを立ち上げて大成長をさせた凄腕醸造家。「メジャーリーガーが草野球チームに入ってくれたようなものだ」と山之内さんは言う。

 

ブランディングを担当する佐藤さんもハワイ育ちという国際派。ボトルのデザインも彼が手掛けている。

 

20年以上松山に住んでいるロシア人のセルゲイさんはパン作りなどを通して世界中の酵母を研究している元プロの料理人で、ビールづくりに不可欠な酵母の知識に精通している。

 

そんな国籍も経歴もばらばらの4人が「自分たちが飲みたいものをつくりたい」という純粋な想いで、心から楽しんでつくっているのがこのDD4Dのビールなのである。

 

好きなものを好きという勇気 

 

「ビールを通して、人生の多様性を伝えたい」と山之内さんは言う。

ビールも、生き方も、みんな違ってみんないい。メインストリームにのるのではなく、少しステップアウトして好きな事をする勇気を届けられたら。

 そんなメッセージのこもったビールはどれも「よくあるビール」からは少しステップアウトした、個性とこだわりのつまった一品だ。

 

ひとりでじっくり嗜むのもいいけれど、わたしは身近な人たちとあれこれ語り合いながら飲みたい。

 

それぞれが好きなビールはきっと違う。みんな違ってみんないい。