石木花
自然との繋がりを感じてほしい
小さな器に込めた大きな自然
2022.6.17
手のひらの上の自然、ミニ盆栽
「石木花(セキボッカ)」は手のひらにすっぽりと収まってしまうほど、小さくて可愛らしい盆栽です。
直径5センチほどの器から伸びる植物は、そっと優しく、凛と美しく、時にはたくましく、自然の息吹を感じさせ、四季の移ろいに気づかせてくれます。
「盆栽」というと少し堅苦しいイメージを持たれるかもしれません。けれど、石木花はもう少し肩肘を張らずに、日本伝統の奥深さや自然の美しさを感じるこころを伝えてくれます。
手のひらサイズの愛らしい石木花
木の表情や器のニュアンス、ひとつとして同じものはなく、愛らしさを感じる石木花。いったいどのようにしてこの世界観は生まれたのでしょう。
石木花の常務、後藤 卓也さんに、小さな器のなかに込められた熱い想いを伺いました。
後藤 卓也さん
「日本の美しい自然と伝統を新しいカタチで」
石木花は山形県の自然豊かな地で、卓也さんの父であり代表の後藤 浩二さんの代にはじまりました。
家業は寺社仏閣の宮建築を営み、浩二さんは幼いころから日本の伝統文化に触れて育ってきたと言います。園芸愛好家の母の影響を受け、趣味は盆栽。小学4年生のときには野にある植物を採って育て、盆栽に仕立てるようなことを行っていたそうです。
時が過ぎ、宮建築の仕事を通して伝統文化への知見が深まると、日本の伝統文化と自然は密接につながっていることを実感するようになります。
日本の伝統的なモチーフには、自然や季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性が宿り、たくさんの植物が使われている。日本の美しい自然と伝統を新しいカタチにして、若い人たちへ届けることはできないだろうか……
石木花は浩二さんのこんな想いから小さな芽を出し、今につながってきました。
山形県の美しい自然風景
自然のなかで育まれた「石木花」の世界観
卓也さんもまた幼いころから雄大な自然のなかで植物に親しんできたそうです。
山登りなど自然のなかに連れ出してもらう機会が多く、「テーマパークには行ったことないけど、崖の上には登ったことがある」というような子ども時代を過ごしてきました。
自然のなかで育まれた感覚が今につながっていると思います。例えば、沢登りで崖の上に手をかけてグッと体を持ち上げたとき、手のすぐそばに小さな植物がぽっと生えていたりするんです。それを見た瞬間、何百年も生きてきた植物に匹敵する生命力を感じます。そんな経験の積み重ねが、石木花の世界観になっているのだと思いますね。
大きな石のうえに風にのって運ばれてきた種が、芽を出し木が育つ。やがて成熟して花を咲かせ、実をつけていくようなイメージが石木花には込められているのだそう。
手のひらに収まるほどの小さな盆栽には、そんな自然のたくましさや美しさ、優しさや厳しさが表現されています。
「植物のありのままの良さを生かしてあげたい」
石木花をかたちづくる工程はすべて手作業で行われています。
植物は種を撒き、愛情をかけて育て、成長を待ち、商品になるまでには最低でも5年はかかるのだそうです。
うちには何百種類もの植物がありますが、ひとつひとつ表情も性格も違うんですよね。肥料や水をやるタイミング、剪定するタイミングは植物の性格によって変えています。常に植物に寄り添って、植物の声に耳を傾けているうちに自然とわかるようになりました。
種まきから商品化までは最低でも5年
卓也さんが植物を育てるうえで大切にしていることは、植物が持つ本来の美しさを損なわないよう、無理に形を整えないことだと言います。そこには、盆栽だけどフラットな親しみやすさを持つ石木花の特徴があります。
間抜けな感じで枝が広がっているようなものもたまにあるんですけど、『この木のチャーミングなところじゃない?』って思うんですよね。盆栽であれば整えるべきところですが、ユニークな枝があってもそれが個性だし、ありのままの良さを生かしてあげたいんです。
植物のありのままの個性を活かす
例えば、人間だって一人ひとり顔も違えば性格も違う。だけど、その人の持つ個性は唯一無二なものですよね。それは植物も同じ。
「肘張らずに自然体でいいんだよ」と語りかけてくれるような石木花の植物が持つ優しさは、育ててくれる人の温もりを受けてのびのびと育った証なのかもしれません。
植物の特徴によって手入れのタイミングも全て異なる
「器にはものづくりの熱量を残す」
「器」にも手間ひまをかけ、小さな鉢やお皿もすべてスタッフが一つひとつ手作業で作っています。
器には、ものづくりへの熱量をそのまま残すことを大切にしています。器だって一つとして同じものはないんですよね。ちょっとした歪みだったり、どこかしら抜けていたりしても、植物と組み合わされたときにスッと馴染むんです。
器の表情やニュアンスは少しずつ違っていて、手仕事ならではの温もりや味わいを感じさせ、安らぎを与えてくれます。
自社に窯を構えて、鉢や受皿もすべて手づくり
手作業へのこだわりは父・浩二さんの代から受け継がれてきたそうです。「日本のさまざまな伝統文化に触れ、手仕事の極みの部分を見てきたからこそ、人の手から生まれる熱量にこだわりを持ち続けたい」と卓也さんは話します。
ひとつの作品のような佇まいは、自然に触れ、土に触れ、木と関わる繰り返しの毎日のなかで研鑽されて作り上げられてきたものなのです。
すごく大切に育てられた紅葉と一通の手紙
想いが込められた石木花を受け取ったお客さまからは、お手紙が届くことも多いそう。
なかでも印象に残っている出来事は、お孫さんからプレゼントされたという90歳のおばあちゃんからのお手紙だと言います。
手紙には、孫からもらった紅葉をずっと大切に育ててきたこと、だんだん目が見えなくなってきてしまったこと、紅葉を手で触って確かめながら育てていること、この先育てていけるか不安なので代わりに育てて欲しいことが書かれていました。
送られてきた紅葉は、毎日指で確認したんだろうなとわかるほど苔が陥没しちゃっているんです。でも、すごく大切に育ててもらってきたんだなというのが一目でわかりました。自分たちの想いを受け取って、愛で育ててくださるお客さまの存在を感じるたびに、真剣に向き合ってきて良かったなと思います。おばあちゃんから預かった紅葉は今でも大切にうちで育てていますよ。
現在も元気に育っている、おばあちゃんから預かった紅葉
「植物を育てることで、自然とのつながりを感じてほしい」
石木花が伝えたい想いは「感じる」ことの大切さ。
日本の伝統文化の根底には、自然の移ろいや美しさを感じるこころが宿っています。しかし時代の流れはより効率的でより簡単なことを求め、現代では慌ただしく過ぎてしまう日々のなかで、「感じる」ことがむずかしくなっているのではないでしょうか。
そんな今だからこそ「植物を育てることで自然とのつながりを感じて欲しい」と卓也さんは話します。
盆栽と向き合っていると、芽が出た、蕾が膨らんだ、花が咲いた、そういうひとつひとつの変化を感じることができます。そうすると盆栽だけじゃなく、周りの見え方が変わってくるんです。
道ばたで小さな花を見つけたり、街路樹の葉っぱが色づいてきたなと感じたり。そういった感覚に立ち戻ることで、より豊かにより健やかに生きられて、救われる部分が多いと思うんですよね。だからこそ、自然への扉として、石木花を届けていきたいんです。
「小さな器に大きな自然」というコンセプト通り、コロンとした小さな石木花に込められた想いは壮大な自然へとつながっています。
暮らしのなかで植物の魅力に触れ、自然とのつながりを感じる日々を過ごしてみてはいかがでしょうか。