季縁

日本の美意識を現代へと繋ぐ
再生利用で紡ぐ着物ドレス

 

京が誇る伝統工芸を現代に紡ぐ

日本の美意識の原点ともいえる着物を、現代にもフィットするよう生まれ変わらせる季縁のきものクチュールドレス。熟練の職人によって数多くの工程を経て生まれる美しい着物だが、残念ながら箪笥で大切に眠っているという人も少なくないはずだ。

 

 

季縁のドレスをプロデュースしているのは、生まれも育ちも京都の中心の生粋の京女・北川淑恵さんだ。場所柄、幼いころから当たり前のように着物に慣れ親しんでいる。

 

 

ご存知の方も多いと思うが、京都は神事の行事が街中に浸透している。代々受け継がれる着物があり、それを着用するような伝統慣習もあるのだ。北川さんは、着物のことをよく理解しており、そして着物文化へのリスペクトがある。だからこそ、着物に表れている伝統技術を多くの人に手にとってもらいたいという想いで、きものクチュールをプロデュースしている。

 

 

京都においても伝統工芸の現状は厳しく、10年後には30%の伝統工芸がなくなるといわれている。北川さんは衰退していく京都の産業に、何か自分が出来ることはないかと模索をしていた。

 

 

季縁の立上げは北川さんの旧友が染職人から相談を受けたのがきっかけだった。「実はもう若手は自分しかいない。なんとか伝統工芸を残していきたいのだが、何か方法がないか一緒に考えてもらえないか?」着物に限らず、日本の伝統工芸全体の悲痛な叫びであった。

 

 

伝統工芸を残すことを考えると、継続的に職人の力を発揮できる場を作ることが必要であった。「現代の生活様式の中で、日々無理なく取り入れられつつ、職人の技術が表現できるようなプロダクトは何か」一年模索し、やっと最後に着物ドレスのアイディアに至ったという。

 

 

 

 

当初は白生地にデザインを考え、友禅染や刺繍などを施す方法を検討していたものの、思いもよらず、困難に直面することになる。

 

 

そもそも、着物を作るときには、染問屋(そめどんや)さんという着物制作のプロデューサーが存在する。呉服屋さんと染問屋さんがお客様と職人の間に立ち、お客様の好みとニーズを聞き、それを得意分野とする各職人に仕事を振り分けるのだ。

 

 

それはかなりのプロデュース力とマネジメント力を必要とし、いきなり職人たちと独立して進めようとしても簡単に出来ることではなかった。いろいろと試行錯誤を重ねた結果、ドレスの型と、一つの型染めの模様を作り、模様の配置をお客様に決めていただくという方法を取ることにしたのである。

 

 

このゼロからの着物ドレスのオートクチュールサービスは、現在でも季縁で取り扱われている。ただ、工程からもお分かりになるよう、決して安価に提供できるプロダクトではなかった。

 

 

これでは、当初の「日々無理なく取り入れる」コンセプトは到底達成できない。北川さんはそこからさらに試行錯誤を重ね、既に存在する反物や着物からドレスに仕立て上げるという方法にたどり着いた。一反の布をつなぎ合わせ、ドレスの形にする。幅はたったの35cmほどしかない反物を、ドレスの形にリメイクするということだ。

 

 

北川さんたちはもう着用されなくなった着物や、仕立てられることもなかった反物のなかでも、とりわけ技術がふんだんに取り入れられていた質のいいものに着目した。

 

 

季縁のきものクチュールの元の着物に黒留袖が多くなりがちなのは、柄が大きく、ドレスにリメイクしやすいからである。色物もなくはないが数は少ない。日本の文化を伝える美しい柄が染めや刺繍でほどこされた留袖を探しストックしている。

 

 

一反の反物から生まれるたった一つのドレス

着物ドレスを作るのは、着物の形になっているものからスタートする場合はそれをきれいにほどくところから始まる。着物はたった一反の布からあの立体的な形を作り出しているだけあって、縫い合わされる接点が非常に多い。

 

 

そのため、「ほどき屋さん」という専門家に依頼して一度ほどき、そしてまた前身頃、後身頃の柄をそれぞれきっちりと合わせて、元の柄に再構成をしながらつなぎ合わせ、一反の反物の状態に戻している。

 

 

実はこの柄の再構成はとても難解だという。なにせ幅35cmで、長さは12メートルもあるのだ。しかし、どれだけ難しい作業であっても反物に戻して洗うのだという。

 

 

着物を洗濯する機械の特性上、このロール状の反物に戻してからしか無理なのだ。ロール状の機械に乗せ、蒸しながら洗浄をしていく。これは着物古来の洗浄方法であり、「洗い張り」という。

 

 

 

 

このように綺麗になった反物はドレス屋さんに送られ、お客様の寸法と柄の位置のリクエストに合わせてドレスに仕立てられる。

 

 

もしかしたらここで、「着物なのに和裁士さんじゃないの?」と疑問に思われた方もいたかもしれない。実は当初は和裁士に依頼をしたものの、柄が来る位置を整えドレスに仕立て上げることができなかったのだという。

 

 

たまたまある洋裁の工場に着物好きな方がいらっしゃり、きものクチュールの最後の工程を請け負ってくれることになったのだという。

 

 

これら3つの型から選んでいただき、生地は季縁のもつストックの中から選ぶ、あるいは自身の着物を持ち込んで相談することも可能である。柄の出し方も含めて相談をし、自分だけのオリジナルの着物ドレスが完成する。 

 

 


 

 

ドレスが紡ぐ「着物へのリスペクト」

アンティークの着物や反物をアップサイクル(=リサイクルの中でも、より価値の高いものを生み出すサイクルのことを言う)する、というのが表面上の季縁の着物ドレスの説明になってしまう。しかし、北川さんの想いはもっと深いところにあるのだ。

 

 

「季縁」というブランド名は北川さんが名付けた。日本の美しい四季の「季」。 そして仏教の教えでも中核的に出てくる「縁」という言葉。これは、巡り合わせを大切にする事で道は必ず開ける、という意味を持つ。

 

 

この二つを組み合わせ、「季縁」と名付けた。日本の四季が随所に散りばめられた着物を通し、ご縁で巡り合う世界中の方たちに日本の美しい文化を伝えて行きたい、という想いが込められている。

 

 

日本の伝統工芸は、神様への祈りや捧げ品から発展したケースが多くあると北川さんは言う。着物一つを取ってみても、生地を織り上げたり、白生地を染めたり、刺繍を施したり、友禅染をしたりなどの一つ一つの工程に、かつては祈りが込められていたのだ。その祈りとは「天災や疫病などを治め、自分たちを守ってくれる」こと。

 

 

何か、今の時代に妙にピンとくるのではないだろうか。このような、着物の技術の背景に存在する精神を感じ取ってほしいのだと北川さんは言う。


 

 

 

北川さんは着物に挑戦をしようとしているのではない。むしろ、着物への大いなるリスペクトがあり、着物を知っているからこそ、着物ドレスを作ることが出来る。

 

 

着物への関心が薄れることなく、むしろ注目度が高くなっていくことに着物ドレスが貢献できればと考えていると語っている。

 

 

日本の誇るべき精神と文化が育んできた着物を、一層身近なものに感じることができる、あなただけのきものクチュールを仕立ててみてはいかがだろうか。