By Emotion
経済産業省指定の伝統工芸、「京くみひも(組紐)」。飛鳥時代、奈良東大寺の正倉院にルーツをもち、古くから和服や小物など、広く生活を彩ってきた技術、製品です。「織りもの」は経糸と緯糸で織られますが、組紐は2本の経糸を斜めに配し、組み上げてつくります。「三軸組織(くみおり)」は組紐の「組む」という技を起源としており、斜め45度の角度で交差する経糸に、さらにもう一本真っ直ぐな経糸を通すという、複雑な技法で織り上げられる製品。
三軸組織 「孔雀皇貴」の帯
三軸組織の特徴は、織地が斜め組織となるため緩まずシワになりにくいこと、複雑に交差した糸によって光の屈折が生まれ、独特な光沢を生み出すことです。世界で綵巧のみが所有するたった2台の「大型環状織機」のみが、この三軸組織をつくることができます。三軸組織の生まれた背景や製法について、室門 耕一郎さんにお話を聞きました。
室門 耕一郎さん
綵巧が誇る、2台の大型環状織機。60年前に開発されましたが、きっかけは正倉院宝物殿に残る最古の組み帯を、現代の約30㎝以上の帯巾で復元しようとしたことでした。イタリアのトーションレースの織機を参考に開発された直径5m×高さ5mの大型織機は、当時は6台ありましたが現存するのは2台だけ。他所には存在しないため、修理の専門家もおらず、日頃の手入れや故障時の対応もすべて自社の職人の手によって行われています。
大型環状織機
三軸組織の受賞作品「孔雀皇貴」は約2年前から開発をはじめ、今年に入り製品化に成功。中央の幾何学模様を、両端の孔雀の羽のような、円を描く模様が挟み込む、1つの織地に2つの文様が入った、これまでに類を見ない織地です。
制作工程では、織りよりも準備に時間がかかります。1台に480あるボビンに、すべて同じ長さの糸を10本巻きますが、その中の1本でも緩んだらすべてがダメになるので、細心の注意を払いながら何百メートルも巻く。これに3週間かかります。ちなみに糸は純国産の正絹100%。その後、織機にセットされた糸を、4人がかりで1日で織り上げます。
織機1台に480個あるボビン
難しいのは、織機はコンピュータ制御ではないので天気で変わる絹糸の状態への対応。斜め織りは糸を動かす時の摩擦が大きいため、特に冬場は静電気に注意が必要となります。そのため、京都でも霧が多いことで有名な亀岡を生産地として選び、湿度の高い環境下で製織作業をおこなっています。
元々バッグに用いられる生地を織っていた綵巧。上述のように最古の帯を現代に再現するため三軸組織に取り掛かり、今では西陣の着物の生地も作っています。デザインは室門さん、室門さんの父親、工場長で相談して決めており、色目に関しては室門さんが染め出したものから採用しています。
難しいのは、大型環状織機を用いた三軸組織は世界で綵巧しか生産していないため、困ったときに頼れる専門家がいないこと。部品の調達もままなりませんが、「何としてでも維持し、後世に伝えていかなければならない」と考えています。
受賞作品
作品名:三軸組織 「孔雀皇貴」
素材:純国産正絹
技法:大型環状織機による三軸組織