日本和文化グランプリ グランプリ/Grand Prix 

「YORISIRO」/「WAVE」
中川木工芸比良工房

 By Emotion

 

 

中川木工芸比良工房が制作した木桶、「YORISIRO」/「WAVE」。どちらも木板が合わさっていることを俄かには理解できない、自然な曲線が目を惹きます。水を湛える機能をもちつつ、一般的な「桶」のイメージを凌駕する姿から感じる、言語化できない感覚を解くカギを得ようと、制作者である中川 周士さんに話を聞きました。

 

 

以前は、1年に2ヶ月間は海外に行き、展示会や打ち合わせをしていましたが、昨年からコロナの影響で日々工房にいます。

 

YORISIROWAVEも、ここ数年取り組んでいたものをグランプリに応募したのですが、年中工房にいて考える時間も取れたので、ちゃんと出せていなかったものをまとめる意味合いでコンセプトを作りました。

 

 

応募作であるYORISIROWAVEに限らず、はじめにカチッとしたコンセプトを立ててそれを具体化するのではなく、手を動かして未だ言語化されていない思想や哲学を具現するのが中川さんのものづくり。なので、私たちが知るコンセプトは、作品が完成した時点で自ずと出現すると言います。

 

 

中川木工芸比良工房 中川 周士さん

 

 

今回の2作品はそのものづくりの姿勢をベースに、素材へ対極的なアプローチをとることで生まれました。素材がもつ、コントロールできない部分から生まれたのがYORISIRO、逆に100%コントロールできる部分をまとめたのがWAVEです。

 

 

YORISIRO

YORISIRO=依り代。神社にある木や石など、神が宿る対象物を指します。中川さんが端材で制作した作品を知人に見せた際、自然から切り出してきたような形状を表した言葉を冠しました。


「YORISIRO」シリーズ

 

作品に使う木材は丸太で購入しますが、通常の桶に使える真っ直ぐな部分は全体の50%。曲っているもう50%は端材として、活用の途が見えてくるまで棚に積まれてストックされます。中川さんは「寝かす」という表現を使うのですが、何度もその端材を見る内に、自然と「これは片口に」、「こっちはピッチャーに」と着想が浮かぶまで手に取ることはないといいます。

 

 

自分のつくりたい形を素材に当てるのではなく、素材の中にある違和感を取り除いていきます。

 

 

ひとたび形が立ち上がったら、作業に取り掛かります。YORISIROは木材を「みかん割り」といって4つや8つに割ったあと、ショートケーキのようになった木材の縁を割り、鉋で削ったものを再び組み合わせて成形されます。

 

 

ところで、桶の構造は木板と底板を箍(たが)をはめて固定するもの。一般的には、上部や底板付近を中心に複数本の箍が用いられますが、YORISIRO(後述するWAVEも)は最底部に配された一、二本しか箍がありません。

 

 

このようなデザインも相まって、切り出された幹が空間にスッと鎮座しているように見えますが、これはテコの原理によるものです。箍が支点となり、底板が桶を広げようとする力を上方を締める力に反転させています。大変な技術ですが、これにより木材の曲がりなど自然な表情を除くことなく作品に活かすことができました。

 

 

木桶の制作には、台が曲線(かまぼこ状)の鉋を使用

 

 

制作する木桶により、約300種の鉋を使い分ける

 

 

 

WAVE

YORISIROが木材の内なる声を引き出し、具現化する作品なのに対し、WAVEはデザイン×技術で創られます。PCで図面をひき、工程通りに仕上げてゆくのですが、15枚ほど板を切り出し、削り、合わせて1つ完成させるまでに丸2日間。極端なほど下にとられた箍が支点となり、広がろうとする底板の力を上方を締める力に転じさせている点ではYORISIROと同じですが、WAVEの特筆すべき点は多角形であること。

 

 

「WAVE」シリーズ

 

 

本来木桶はアーチ構造をその原理とするため、丸い形がほとんど。一見それとは別物に見える多角形のWAVEも同じ原理をベースにしていて、多角形を異なる大きさの円の集合とみなし、隣り合う大きさの異なる円の中心点を直線状に配置することにより安定させています。このように、自由で感覚的につくられているように見えるWAVEは、緻密な計算と論理に裏打ちされた形をしています。

 

 

和文化とは、個人を超えた「伝承」

中川さんは、自身を「アーティストではなく職人」と称します。アーティストは一代限りでオリジナリティをもって表現することがキモだが、職人は個人を超えた「伝承」を大切にする。伝統工芸の職人も、どうしても今のランナーにスポットライトが当たるが、先代、先々代から渡されたバトンがある。自分のアイデンティティを超えた「伝承」こそ、和文化の本質、と語ります。

 

 

新型コロナウイルスの影響が広がる前は海外に頻繁に赴いていた中川さんは、日本と海外を俯瞰して

 

 

海外のアート市場でもクラフトは注目されています。

 

個人のクリエイティビティがポイントとなるアートに対し、クラフトは「継承」「匿名性」が大事です。

 

さらに視野を広げると、世の中も特定のエリートが物事を動かすのではなく、個人を重要視しながらも集合的な知で課題を解決してゆく、「IからWeへの転換」を感じています。

 

 

と話します。

 

集合的な知を形成するのは、多様性です。「自分の中にも多様性が存在していて、矛盾をもった自分でもそのままで良い」という中川さん。YORISIROWAVEから受けた、言語化できない感覚は、移りゆく社会のイメージかもしれません。

 

 

 

受賞作品

作品名:「YORISIRO」

寸法:各種

素材:杉・ニッケルシルバー・真鍮

 

受賞作品

・作品名:「WAVE」

・寸法:各種

・素材:高野槇・ニッケルシルバー・真鍮

 

 

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