箔アーティスト 裕人 礫翔さん

月や自然への感謝から生まれる
世界を魅了する金銀箔アート

By Emotion

2021.02.10

 

ああ、自分は小さいな。そんな自分を照らしてくれるお月さんのような温かい人になれたらな。

 

40歳で金箔銀箔アーティストとしての道を歩み始めた、裕人礫翔(ひろとらくしょう)さん。

 

 

家業(箔工芸)だった西陣の外には頼るものは何もないところからのスタートでした。当時3人の子供たちを独りで育てていた礫翔さん。とにかく前を向いて走るしかないが、不安な気持ちは拭えず、ずっと下を向いていたといいます。

 

 

そんな礫翔さんが、ふと見上げた夜空に浮かぶ月を見て感じたのが、冒頭の想いです。

 

 

以降、月・星・宇宙にインスピレーションを受け、様々なものへの感謝を表した作品づくりが始まります。

 

 

金箔、銀箔のイメージを変える色彩

金箔、銀箔といえば金色や銀色で薄い紙の様なものをイメージされるのではないでしょうか。ところが、裕人礫翔さんの生み出す作品は、この想像をいともたやすく裏切ってくれます。

 

 

作品のなかで箔は 多彩な色、細かな起伏、詫び錆びを感じられる陰影として使われているのです。

 

 

烈火の街に青の救世主

 

大樹の華やぎ

 

 

裕人礫翔とは

京都・西陣の箔工芸の家に生まれた裕人礫翔さんの遊び場は職人さんの仕事場でした。

 

 

金箔・銀箔の貼り方を見ながら父親から「お前は箔の仕事を継ぐんだ」と幾度となく言われて育ったそうです。

 

 

絵が好きだった父親は、裕人礫翔さんを川に連れて行き写生などの勉強をさせてくれたため、絵が好きになった礫翔さんはコンクールに出展することもありました。

 

 

高校では美術部に入り、絵のスケッチ塾にも通っていた礫翔さん。文系理系科目より絵が好きで、大学では油絵の洋画コースで学びました。

 

 

タッチとしては具象より抽象の大胆さを好み、ワシリー・カンディンスキーやマーク・ロスコに特に惹かれたといいます。

 

 

学生時代にバイトしていたこともあり、大学卒業後は着物問屋で帯の営業に従事。その際に取引先の社長に陶器や絵の質感などを教えてもらい、視野を広げました。

 

 

その後父親の跡を継ぎ、箔工芸の西山治作商店の代表となった礫翔さんは、金箔、銀箔を和紙に貼って包丁で一本一本切った紙の糸(引箔)を絹と合わせて、帯や着物の柄として提案していたそうです。

 

 

引箔

 

その仕事をする中で、西陣のメーカーから日本画にはない、箔の生み出す質感、色の濃淡の表現を学びました。

 

 

平面で薄い一枚の箔に起伏や奥行き、錆びなど「時の流れ」を出すことが礫翔さんの技術で、箔のパターンを何十枚も見本帳に入れてメーカーを回ったそうです。

 

 

箔のパターンの見本帳

 

そして40歳の時、箔加工技術を活用して面白いものを生み出せるのでは、という思いが高まり、西陣を出てアーティストとして挑戦する決断をしました。

 

 

工芸にも現代アートにも属さない作品の振れ幅

礫翔さんの個展に伺うたびに驚かされるのが、その作品の幅広さです。

 

  • 箔加工技術で生み出す抽象的作品

波動

 

通常、金箔は金97%に銀と銅を混ぜ伸ばしてつくられます。金の含有量が多いと赤みが増し、少ないと青みが増すので、意図する色の箔を箔屋に作ってもらいます。

 

 

そしてそれを硫黄とアイロンの熱によって酸化させることで、銀から薄金、濃金、赤、青、緑、紫、黒、墨と変化させます。

 

 

また刷毛でこすることで、反射を調整することができ、これは経年の表現となります。その他、特殊なノリを利用して錆びに見せることもできます。

 

 

アイロンや刷毛などさ作業道具

 

  • ジバンシィとコラボしたリップケース

 

ニューヨークの友人がたまたま京都に連れてきてくれた、ジバンシィのメイクアップ アンド カラーアーティスティックディレクター ニコラ・ドゥジェンヌと意気投合したことから生まれた、世界で600個の限定品。

 

 

レザーという素材にどのように箔をのせるかが挑戦だったそうです。リップケースは手の触れる頻度が高いため、摩擦に耐えるように樹脂でコーティングし、摩耗試験にも合格したといいます。

 

 

「空気以外には何でも貼れる」と、レザーに限らず、鉄、木など様々な素材と箔を組み合わせた作品を創作しています。

 

 

UNIVERSE

 

  • 写真に箔を乗せ複写できない唯一無二の一枚

ジバンシィとのコラボを聞きつけたLVMHのフレグランス部門のトップが、箔の魅力を知りたいと礫翔さんを訪問しました。

 

 

その時に一緒に来たパリの写真家、ジョアンナ・ロレンツィオさんの写真が礫翔さんには観音様に見え、写真に箔をのせて金色にしたいと思ったことで生まれた作品です。

 

 

印刷すれば何枚もできてしまう写真に金箔をのせることで、唯一無二の一枚に仕上げる新たな表現方法として注目を浴びています。

 

 

近未来の偶像

 

 

進化するRAKUSHOの世界

裕人礫翔さんの活動を支える一人としてRAKUSHOブランドに新たな世界観をもたらしているのが、息子さんの慎太郎さんです。

 

 

父親の活動に感銘を受けた慎太郎さんは技術を見て学びつつ、礫翔さんにはない色を作品に持ち込んでいるそうで、個展でもよく購入されているといいます。

 

 

慎太郎さんの目標は、箔をファッションに落とし込み、より身近なものにすること。裕人礫翔さんの箔加工技術や芸術性と、慎太郎さんの若い感性の化学反応により生まれるであろうファッションアイテムが楽しみでなりません。

 

 

左:慎太郎さん 右:裕人礫翔さん

 

略歴

2019年    アートフェア東京2019にアールグロリューから出品

2017年    アートフェア東京2017にアールグロリューから出品

2016年 4月 妙心寺・天球院・方丈障壁画 奉納

2016年 2月 GIVENCHYコラボレーション Le Rouge Kyoto Edition

2015年 4月 クウェートにて個展「The Golden Renaissance」(主催:クウェート文化庁)

201211月 京都・岩倉 実相院門跡にて展示会「月の記憶」を開催

201210月 大丸松坂屋百貨店・貴賓会に出展(名古屋・ウェスティン名古屋キャッスルホテル)

201111月 ニューヨーク・バーグドルフ・グッドマンにて展示会「GOLD LEAF KYOTO COLLECTION

201110月 ハイアットリージェンシー大阪にて大丸松坂屋・貴賓会に出展

201110月 知恵産業融合センター目の輝きにて講演

201110月 第二回文化とコンピューティング「アートフェア」出展

2011年 1月 京都・未来の名匠に認定

2010 2月 京都・美の継承~文化財デジタルアーカイブ展~

20107月 博多織と裕人礫翔~月を織る~ 於:福岡アジア美術館

2010 2月 Collaboration Works by Hiroro Rakusho & Ralph Rucci

2010 2月 Chado Ralph Rucci  New York Collection Autumn/Winter 2010

2010 1月 パリ・ルーブル美術館 日仏交流150周年・京都パリ友好都市50周年記念スペシャルイベント

2010 1月 上海万博 文化財屏風作品を出展(2010

2009 9月 Chado Ralph Rucci  New York Collection Spring 2010

2009 7月 緑陰講座「箔花繚乱」

2009 6月 蜂ヶ岡中学校にて「文化財と親しむ授業」

2008 7月 北海道 G8洞爺湖サミット(2008)

2008 1月 イタリア・ミラノサローネ出展

2007 4月 京都1200年美の継承展・そごう横浜店

2006 6月 Art Expo New York

2005 6月 パリ市長に「円満」贈呈〜京都・パリ友情都市盟約50周年向けて文化交流を推進

2005 5月 随心院門跡 ドイツ・ドレスデンのパルッカ・シューレ舞踏大学

200411月   パリ市長に箔テキスタイル「月光」贈呈

200410月   ギリシア・ローマ美術館 宇宙の織物 コズミック・ウェブ

2004年     財団法人京都国際文化交流財団・理事就任

2004年 3月 地元西陣にギャラリー「礫翔」をオープン

2002年   「裕人礫翔」を設立

2001 1月 片岡鶴太郎氏と共同制作