By Emotion
「組子」は、細くひき割った木に溝・穴・ホゾ加工を行い、釘をまったく使用せずに細かなパーツを組み合わせることにより美しい幾何学文様を表現する、日本の伝統的な木工技術です。約1400年前の飛鳥時代にルーツをもつといわれ、木造建築の「欄間」や「障子」に用いられ、日本文化の長い歴史のなかで継承されてきました。
そして現在、日本全国各地域で発展してきた「組子」は、建具職人が腕を競う最高峰の技術として受け継がれています。そのような背景において、土佐組子は「『土佐の組子』を自ら、創造し発信する」という意志を持って2016年に創業されました。
土佐組子 創業の精神
土佐組子を30歳で創業した岩本 大輔さんは「日本の伝統的組子技術を用いながら常にあたらしいものづくりに挑戦し、枠にはまらない、和文化のイノベーションを目指しています」と話します。家業の建具屋ではなく他の分野で仕事をしたかったという岩本さん。いざ継いでみると既に出尽くしたと思っていた木工技術に、未知の表現が多くあることに気づきます。
岩本 大輔さん
建具技術の中でも最も難しいと言われる、「組子細工」を製作し続けるのは岩本さんの祖父から父へと受け継がれてきた思いでもありました。その父が技術を学んだのが以前、埼玉県にあった組子の学校。実家で5年間修行した岩本さんは自身も父と同じ学校へ進むことを考えましたが、日本で唯一、組子技術を学ぶことのできた学校は閉校となっていました。
最終的に、父の同期であった宮城県の組子職人に師事し、そこで組子の基礎を教わることに。月給は5万円と、家賃を支払えばいくばくも残らない状況でしたが、「それ以上に教わることばかりでした」と振り返ります。
2011年、東日本大震災を機に高知に帰郷。師匠より教えられたことはすべて身につけていたという岩本さん。その後、実家の家業である建具の仕事を行いつつ、組子の可能性を模索する日々が続きました。そして、2016年に「株式会社 土佐組子」を創業します。
なぜ祖業と切り離して新会社を立ち上げたのか。岩本さんは
「組子」のあらたな可能性を表現し、未来へと継ぐため。
それが創業時の精神となっている、と言います。
ゆえに、土佐組子は創業時より建具だけではなく組子を取り入れた生活雑貨等の新商品を制作しては、展示会に出展。お客さまの声を聞き、自ら発信を行っています。東京銀座の百貨店・松屋で今年2回行った地方創生プロジェクトでは組子がショーウィンドウを飾り、今までにはない組子の世界観を表現しました。建築業界をはじめ、多方面から問い合わせがあり、特に女性からの反響は予想以上に大きかったといいます。
組子を取り入れたカードケース 「アサノハ」
誰も実現したことのない「組子耐力壁」
創業直後に、相談されたのが「組子耐力壁」の製作でした。東京大学大学院農学生命科学研究科教授 稲山 正弘氏の発案・監修のもと、製品化に向けて何体も組子耐力壁を作っては試験を行い、現在では普及に向けてさらに使いやすくするための開発を進めています。これまで組子を用いた耐力壁が存在しなかった理由を、岩本さんはこう教えてくれました。
組子耐力壁を製作するという根本的技術要因もさることながら、「見るからに繊細で細く、壊れそうな組子を耐力壁として利用するなんて、考えることもなければ、もし実現したとしても需要もないだろう」という固定観念が業界にあったと思っています。
組子耐力壁の製作過程においては、まず高知県のヒノキを選別するところからはじまります。木材1本1本の含水率を計り、合格した木材のみを使用。また、耐力壁として安心して利用してもらうために、製品性能試験を現在も年数回行っています。岩本さんは「組子耐力壁の性能をきちんとした数値で表すことで、もっと多くの方に使ってもらえるよう現在進行中ですので、1年後を楽しみにしていただけたらと思います」と言います。
組子耐力壁
組子耐力壁の問い合わせが多い理由として、もちろん耐力壁であるということもありますが、写真のような、凛とした佇まい、八つ目編みという美しい文様に惹かれるのではないかと思います。地震に耐える強度を持ちながら、採光や通風に優れ、見た目にも美しい組子耐力壁は、販売当初は伝統建築や木造住宅のリノベーションとしての問い合わせが多かったのですが、現在は商業施設や個人住宅など、様々な建築物件の利用へと広がりを見せています。
探究心ーまだ見ぬ風景を求めて
組子耐力壁の製作は、最初から土佐組子に持ち込まれたものではなく、高知県内の建具屋が「できない」と断る中で土佐組子が請け負ったものでした。岩本さんは
「どうせできないだろう」と言われると製作意欲や開発意欲が湧きます。
難しいことをクリアする過程で色々なことが見えてきますし、
達成までの道のりに意味があると思っています。
と話します。
一見難しそうに思えても、乗り越えたところにまだ見ぬ風景が広がる。
高度な要求をする人と仕事をするには、探究心が必要。異分野の知見も取り入れます。そうして、誰もやっていないことを実現することで、多種多様な「引き出し」が増える。この積み重ねです。
組子耐力壁の構造
未来へつなぐ、組子の可能性
組子耐力壁は業界でも珍しく、エンドユーザーより是非使いたいと直接問い合わせがある建具です。「木あらわし※の壁」といえば、CLT(ひき板を積層接着した集成板)、面格子、格子ラティスといった仕様が一般的でした。そのような状況下で土佐組子の組子耐力壁は建築業界の仕組みや我々の住環境をも変え、あたらしい文化を生み出しました。伝統的な和文化を継承しつつ、次世代に向けたメッセージ性がそこにはあります。
※「あらわし」…建築の内装・外装・構造材で木材を外部に見える状態で仕上げることを指す建築用語
現在35歳の岩本さんは、「50歳には一線を退いて後進をサポートしたい」と話します。若い職人に「組子」ではなく「土佐組子」をやりたい、と思ってもらうために、これからも「それはあたらしいのか」、「誰を幸せにするのか」、「自分自身が楽しいのか」という精神のもと、組子技術の継承と、日本の文化、日本の美を伝統と革新をもって未来へつなげていきたいと思っています。
受賞作品
作品名:「組子耐力壁」
寸法:各種
素材:檜(高知県産)
技法:組子