スペイサイドモルトの源を飲む
土屋守の「ひと樽」vol.1



BENROMACH
通常販売価格
土屋 守さんが選んだ<ひと樽>シリーズ vol.1
シングルモルト・ウイスキーに出会ったのは30年前。当時、ロンドンで暮らしていたウイスキー評論家の土屋 守さんから、直接、手ほどきを受けた。
まだ、ロンドンの酒場でも、シングルモルトはマイナーな時代で、イングランドの飲み物はビール、スコットランドの飲み物がウイスキー、なんていう現地の常識も、夜のロンドンを飲み歩きながら、バーテンダーたちから教わった。
以後、シングルモルトにはまり、スコットランドの全蒸留所──その頃は、113カ所でした──のボトルを自宅にコレクションしたこともある。
いま思えば、全アイテムをコンプリートして悦に入るという、ポケモン好き小学生のような自己満足だったのだが、さすがに、全ボトルを飲み終えるころには、数を追いかけるより、質の違いを知ることが、ウイスキーを深めるには大切だということに気付かされていた。
ウイスキーは「生きた農産加工品」
ご存知の通り、ウイスキーは農産加工品だ。大麦麦芽(モルト)を糖化、発酵させたものをポットスチルと呼ばれる単式蒸留器で蒸留。バーボンないしシェリーの空き樽に詰め、スコッチなら最低3年以上を熟成させたものがモルトウイスキーだ。
同じ蒸留所のモルトウイスキー同士をブレンドし、瓶詰めしたものが「シングルモルト・ウイスキー」。それらのうち、ブレンドせずに、ひとつの樽から詰めたものを「シングルカスク」、加水によるアルコール濃度の調整をせず、原酒のまま瓶詰めしたものを「カスクストレングス」と呼ぶ。
原料が農産物であるからには、毎年の作柄に左右される部分があるし、発酵・糖化の過程は微生物に、熟成の過程は気候や貯蔵環境に負うところが大きい。毎年、同じレシピで仕込んでも、先々、まったく同じものが出来るわけではない。
ちなみに、トウモロコシや小麦などの穀類(グレーン)から造るのがグレーンウイスキーで、モルトウイスキーとブレンドして「ブレンデッド・ウイスキー」となる。
「ジョニーウォーカー」「バランタイン」といった昔からの著名ブランドも多く、ウイスキーの世界では、最もメジャーなタイプだ。
ウイスキー好きは「たった1本の樽」を目指す
蒸留所において、膨大な数の樽を管理し、味と香りとを作り上げていくのは、チーフブレンダーの仕事だ。例えば、あるブランドに10年、12年、18年、21年といった定番のオフィシャルボトルがラインナップされていると、それぞれが、毎年、安定した味で出荷できるように原酒の樽を組み合わせていく。
とはいえ、原酒は貯蔵庫の中で熟成が進む“生き物”だ。同じロットで仕込んだ原酒でも、樽の1本1本に表情があり、違う味、違う香りがある。日本酒では、鑑評会向けに特別な造りで樽を仕込むことが当たり前だが、ウイスキーでそれはあり得ない。今年仕込んだ樽が10年後、20年後にどんな味になっているのか、誰にも分からないからだ。
熟成10年目には、どうにも固い味で売り物にならなかった原酒が、15年過ぎから、いきなり華ひらき、魅力的な味に化けるなんていうこともよくある。10年、20年経ってみて、その時に飛びぬけて芳醇な味わいの樽が見つかれば、それを品評会に出品するというのが通常のプロセスだ。
ならば、品評会用でなくとも、オフィシャルボトルのように味を均質化し、安定させるのではなく、「美味しく熟成した樽だけを選んで瓶詰めすれば、極上のウイスキーが手に入る」と考える人々はいるわけで、実際、そうしたことは広く行われている。
蒸留所自身が、数量限定で出す特別ボトルや、酒販会社が蒸留所から買い付けしてくるオリジナルボトルは、その大半が樽単位で選ばれたものだ。
酒販会社のバイヤーたちは、1カ所の蒸留所で30本~50本もの樽を利き酒し、その中から買い付ける樽を選んでくるのだという。消費者としても、この「ひと樽」でしか味わえないというウイスキーに接する機会は、確実に増えている。
だから、探求心旺盛なウイスキー好きたちにとって、現在の興味は、銘柄や熟成年数だけではなく、どんな「旨い樽」に出会えるかなのである。この20年くらい、樽の素材選びや、熟成庫の温度管理技術が飛躍的に進歩し、従来の常識を打ち破るような美味しいウイスキーが続々と登場していることも背景にある。
ウイスキー評論家が選ぶ「ひと樽」とは
いま、個人的に注目しているウイスキーは、冒頭に名前を挙げた土屋守さんが選ぶ1樽だ。土屋さんは、ウイスキー評論の第一人者として活躍する傍ら、ウイスキー文化研究所を主宰していて、ウイスキーのイベント開催や資格認定などの啓蒙活動に熱心。オリジナルボトルも制作している。
なぜ、評論家が自らボトル制作を? と思わされるが、そこには明快な理由がある。
土屋さんが語る。
オリジナルボトルは、もともとは、ウイスキー文化研究所──以前は、スコッチ文化研究所という名称でしたが──その会員向けに企画したもの。最近では、研究所が毎年開催する『ウイスキーフェスティバル』などでも販売しています。
コンセプトは、市販のボトルでは味わえない面白さがあること。世界各地の蒸留所には、原料や蒸留器、あるいは樽への独自のこだわりで造られた『価値ある酒』がたくさんあります。でも、なかなか世の中には出ていかない。それならば、ウチでオリジナルボトルにして、その先進性や面白さを伝えてみようということです。
毎年、10~15種類程度がラインナップされ、ボトルによっては、一瞬で売り切れてしまうものもあるという。
このシリーズ企画では、いま購入可能なボトルのうち、魅力的なものを順に挙げていくが、最初の1本はスコッチの原点が味わえる「ベンロマック・シングルカスク2008」にしたい。
日英で“リモートテイスティング”
ベンロマックは、ウイスキー産地として名高いスペイサイドの外れの町、フォレスにある小規模な蒸留所。創業は1898年と、かなり歴史は古い。
しかし、長い間に所有者が変わったり、生産を一時停止したりと、経営は紆余曲折を繰り返してきた。1980年代には、英国最大の蒸留所グループDCL社(ディスティラーズ社)の傘下にいたものの、1983年にグループ内の整理再編で閉鎖。以来、10年間、熟成庫に原酒はあるが、操業は行われない期間が続く。
© ウイスキー文化研究所
救いの手を差し伸べたのは、地元の有力なボトラーズであるGM社(ゴードン&マクファイル社)だった。1895年創業のGM社は、早くからシングルモルトの可能性に目を付けていたことで知られている。
まだ各蒸留所が自社ブランドでのモルトウイスキーなんて思いもよらなかった1900年代初頭に、蒸留所を説得し、瓶詰めやラベル作りまでも引き受け、「ハウスブレンド」という形でシングルモルトの輪を広げていった。ちなみに、当時は「シングルモルト」という名称はなく、「ストレートモルト」と呼んでいたという。
GM社が再建したベンロマックは、1998年、創業100周年に合わせて操業を再開。ポットスチル2基だけの小さな蒸留所で、生産量も少ないが、自社ブランドで質のいいモルトウイスキーだけを造っている。
スペイサイドの大手が、ブレンデッド・ウイスキーの原料として、あちこちのブランドに原酒を供給しているのとは、対照的なビジネスだ。
© ウイスキー文化研究所
造りの特徴は、「伝統的なスペイサイドスタイル」であること。現在、スペイサイドのウイスキーは、ほとんどがノンピートの造りになっているが、蒸留所がフロアモルティング(フロアで大麦を発芽させる)で自社製麦を行っていた1960年代までは、ピート(泥炭:炭化のあまりすすんでいない石炭)を使うのが常識だった。その伝統の味にこだわり、ライトピートで仕込むのがベンロマックだ。
生産規模が大きくなり、効率化、分業化が進むスペイサイドの蒸留所にあって、ベンロマックは、ほとんどクラフト蒸留所のような存在感を放っている。
土屋さんは、その伝統的な造りに興味があった。
伝統の味を追求するベンロマックには、ずっと関心を持っていました。ただ、シングルカスクのボトルは滅多に出てこないんですね。思い切って樽買いの交渉をしてみたら、OKをもらえたのです。
ベンロマックは、仕込みにアメリカン・ホワイトオークのバーボン樽を使っていますが、そのファーストフィルのものから5つほど候補を選び、サンプルを送ってもらいました。
で、そのサンプルを前に、GM社の5代目社長であるアーカート氏とスカイプでつないで、先方も同じサンプルを前に『リモートテイスティング』を行ったんです。どれもいい出来でした。その中で、これがベストだなと、アーカート氏と意見が一致した1本をオリジナルボトルにしました。
© ウイスキー文化研究所
「旧きよきスペイサイド」を再現する
小さな規模で、わずか3人くらいの職人が手を掛け、ていねいに造り込んでいく。樽も質のいいものを使う。クラフト蒸留所のような造り方が、その味わいに出ていると土屋さんはいう。
なるほど、100年くらい前のスペイサイドモルトは、こういう感じなのかと思わされました。独特のスコッチらしさがありますね。
今のスコッチは、ノンピートかヘビーピートか、あるいはシェリー樽かバーボン樽かといった性格付けをくっきり表現する傾向がありますが、ベンロマックには、いい意味で、もっとファジーな懐深さがあります。
このボトルは、8年ものとは思えないくらいバランスがいいですし、59.9%というアルコール度数を感じさせません。スペイサイドモルトらしい華やかさ、力強さもある。旧きよきスペイサイドが、ここに出現したという印象です。
スコッチのシングルモルト好きとして、スペイサイド原点の味を、ぜひとも自分の舌で確かめてみたい──そんな想いに、共感していただけるのではないだろうか。
Behind the Scenes <ウイスキー文化研究所 土屋 守さん>
2000年代以降ハイボールの登場や低糖質などの健康志向も相まって、ウイスキーは近年ますます注目されています。 そんなウイスキー業界で絶大な信頼を得ている方が、ウイスキー評論家でありウイスキー文化研究所代表の土屋さんです...
商品詳細・配送・お問い合わせ
販売者 | 株式会社ウィスキー文化研究所 |
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商品名 | Benromach(ベンロマック) |
容量 | 700ml |
度数 | 59.9度 |
蒸留年 | 2008年 |
瓶詰年 | 2016年 |
発送スケジュール | ご注文後,、土日祝日を除く5営業日以内の発送となります。 |
配送料金(税込) | 全国一律 1,000円 |
ご購入の際の注意点
- この商品は株式会社ウィスキー文化研究所が販売、株式会社SoGooが発送します。
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