yaso

自然と人の繋がりを呼び起こす
八十の森から届く温かな贈り物

 2023.1.18

 

「アーボリカルチャー」、「ツリーケア」と聞いて、そのイメージと意味がすぐに結びつくという方は、それほど多くはないのかもしれません。

 

 

欧米で誕生したーボリカルチャー」は、日本では「樹木学」や「樹木業」ともいわれます。具体的には、樹木の文化とその恵みを理解し、人と樹木の関係を明らかにする中で、樹木の剪定や伐採、栽培や生産を行うなど、樹木にまつわるケアや文化に関わる仕事全般を指します。

 

 

自然に対する意識の変化や環境保護の観点から、昨今、ここ日本においても活動を始める人たちが徐々に増えて浸透しつつありますが、10年前はまだ殆ど知られていない分野でした。そうした中でいち早くツリーケアとアーボリカルチャーの会社、木葉社を長野県茅野市で創業したのが小池 耕太郎さんです。

 

 

創業からおよそ10年、日本におけるアーボリカルチャーのまさに先駆け的存在として、木葉社は森林や公園、神社仏閣などの樹木管理はもちろん、環境教育やブッシュクラフトスクールなど、人々が自然に学び親しむ場を創出してきました。

 

 

 

 

その木葉社の新たな事業の柱として2019年にスタートしたのが、デザイン事務所との共同プロジェクト、「yaso-ヤソ-」。yasoは樹木の専門家として日々、自然に向き合うアーボリストたちが仕事や日常の中で見つけた森のカケラたちをプロダクトにして届けています。

 

 

ではなぜ、アーボリカルチャーを専門としてきた会社が、プロダクトでメッセージを発信していこうと思われたのでしょうか。その背景には、小池さんが感じていた、ここ数年の大きな環境の変化がありました。

 

 

―人は長い間、自然の恩恵を受けてきた。 だから、もうそろそろ人は森に帰ってくるだろうと予見していました

 

変化を感じるようになったのは、とくにここ数年のことでしょうか。東京に行った時に何気なく街を見渡してみると、昔は見られなかったような風景が街の中に溢れていることに気づきました。たとえば、誰もが知るアパレルブランドのデザインにたくさんの植物が使われるようになったり、ビルの壁面が緑化されていたり。しかもそれらは環境への配慮やエコ意識からというよりも、むしろ新しさやオシャレさと結びついて、時代のアイコンになっている感覚があって。そういう様々な変化を目にする中で、緑の時代がきているな、と感じていました。

 

しかし小池さんの眼差しは、そうした社会の表層で起こっていること以上に、もっと深く、森の中へと向けられていました。

 

とくに近代化以降の流れになりますが、日本の生活様式が欧米化するのと時を同じくして輸入材が一気に日本に入ってくるようになったことを境に、建材や燃料、生活の様々な道具を得るために人々が山や森に入るという文化が衰退しはじめます。そしてグローバル化が進む中で、人の動きに乗って移動した外来植物が在来種に影響を与え、生態系にも大きな変化が起こり始めるようになりました。森と触れ合う機会が減り、かつてあった人と自然、人と森との関係性に距離ができてしまったんです。

 

ただそれでも変化はここ200年くらいの話で、それまでずっと人は自然からの恩恵を受けて暮らしてきた長い歴史がある。だから、そう遠くないうちに人は森に還ってくるだろう、と考えていました。

 

片時も止まることなく、刻一刻とその姿を変える自然を相手に長年向き合ってきた小池さんだからこそ、微細な変化を誰よりも敏感にキャッチしていたのでしょう。

 

 

その思いはいつしか、自身を突き動かす大きな原動力となっていました。

 

世の中が自然回帰の流れにあることはわかっていましたが、(コロナなどのこともあって)想像以上に、世の中の要請が早くきていることに気づいて。さらに、その変化は自分たちの想像する以上の大きな規模で起こっていることもわかり、『ここに大きく力を入れるべきだ』と、はっきりと心が決まりました。

 

こうして昨年、社内プロジェクトの一環であったyasoは企業として立ち上がることになりました。

 

 

―何百年も前の医学書に、松の薬効が高く、 煎じて飲むとよいという記述が

 

yasoのプロダクトは、その一つひとつが森の豊かさと奥行きを物語りながら、どこか懐かしい記憶を喚起させてくれるものばかり。多種多様な葉っぱや木々の枝のオブジェ「yaso BOX」をはじめ、森の芳香がふわりと広がるお香やエッセンシャルオイル、とっておきのお茶まで、多彩なラインナップが出揃います。

 

 

その中でも人気が高いのが、国産の赤松を使った八十茶(やそちゃ)。お茶が生まれた背景を、小池さんはこう語ります。

 

まず、インテリアとしてリビングに飾れるyaso BOXシリーズができたので、次はもう一歩生活に踏み込んだものを作れないだろうか?と考えた時に、もっと普段使いが出来る商品があったらなぁと思ったんです。講習会では木の枝の葉っぱを煎じて飲んだり、染め物をしたりと普段から色々試していることもあって、馴染みのある赤松ならいけるかもしれないと閃きました。

 

とはいえ、どんなに良いアイデアがあったとしても、実際にカタチにしようとすると予想以上に骨が折れるもの。商品化までのプロセスは、まさに試行錯誤の連続だったといいます。

 

 

 

 

たとえば、香り高さで知られる松も、いざお茶しようとするとどうしても特有の青臭さが残ってしまったり、やや雑味が気になってしまったりと、様々な課題が出てきたそうです。

 

 

そんな時に巡り合ったのが、お茶の専門家の方。

 

松の持ち味である独自の芳香をうまく生かすために焙煎して飲みやすくする工夫をしたり、レモンピールや生姜を入れて香りを中和させてみてはという提案や助言をいただきながら、お互いに寝る時間を削って試作を重ねました()。衛生管理された作業場を持つプロの方に製造で入っていただき、汗を流していただいたおかげで納得のいくものができました。

 

と小池さん。

 

 

 

 

実際にいただいてみると、松のもつ温もりと優しく爽やかな香りが口の中いっぱいに広がり、お茶を味わうという日常の体験を超えて、目の前に森の風景を連れてきてくれるような、これまでにない感覚が待っていました。

 

実は何百年も前の医学書には、松は漢方としての薬効が高く、煎じて飲むと体によいという記述が残っているんです。そういう背景もあったのでしょう。昨今、健康意識の高い方々を中心に、抗ウイルス作用もあるのでは?とご注目いただき、お茶をきっかけにyasoを知った、と言っていただけることも増えてきました。

 

昔から“松竹梅”といわれ、数ある植木の中でも縁起の良いものされてきた歴史のある松。かつては全国に広く分布していたものの、“松枯れ病”など様々な環境的要因によって大幅に減少し、健全な赤松が多く残っているのは、現在では長野県の諏訪エリア周辺に限られてしまうといいます。

 

 

そんな貴重な地元の宝だからこそ、一切余すところなく大切に使いたいという思いから、商品づくりの際にはわざわざ森を伐採することはせず、あくまでも活用しきれてない、眠れる資材を生かす方法を守っているのだそうです。

 

 

―yasoは「八十」=あまたのもの。 日本の森林や林業の現場は面白いものが溢れている、というメッセージ

 

森は私たちの知らない未知の可能性が眠る、自然の宝庫なのでしょう。

 

僕からすると、まだ山の1000分の1も商品にできていない、という気持ちがあるんですね(笑)。たしかに一千年前の森は今よりもずっと豊かだったのかも知れませんが、今の山も負けずに面白いものがたくさんあるなと、実感することも多くあります。

実はyasoは「八十」とも書き、あまたのもの、という意味があって、日本の森林や林業の現場にはたくさんの面白いものが溢れている、というメッセージが込められています。自然の豊かさや面白さ、そしてそこからどこまでも無限に広がる可能性を、日々実地で目の当たりにしている者としては、これからも地域の宝を掘り起こし、その魅力を奥行きとともに伝えられるようなものをお届けしていきたいと思っています。

 

商品はあくまでも入り口であって、そこに興味を持ってもらった先には、実際に山を訪ねて直に自然のダイナミズムに触れてみるなど、人々が再び森とつながっていけるような感覚を取り戻せるところ――そんな皆が還ってこられるような場所をつくることができたらいいと語る、小池さん。

 

 

 

 

私たちはもとより自然の一部であり、昔から森と繋がっていたのだということを、ふと思い起こさせてくれるもの。yasoのプロダクトは日常生活の中で、私たちにそんな忘れかけていた記憶とふと繋がる瞬間を、自然からの贈り物のようにそっと届けてくれるのかもしれません。