讃岐かがり手まり保存会

自然の恵みと人の手が生む
色とりどりの美しい「手まり」

2021.11.12

 

香川には、女性たちに愛され、大切に受け継がれてきた文化があります。
それが、「讃岐かがり手まり」。香川の郷土玩具です。

 

 

色とりどりの糸でかがる可憐な花模様や幾何学模様は、まるで万華鏡のような美しさ。木綿糸の素朴な温かみとやさしげな色合いが、ほっと心を和ませてくれます。

 

 

現代ではすっかり見かける機会の減った手まりですが、その技法と材料を忠実に守り、新たな魅力を加えて活動をしているのが「讃岐かがり手まり保存会」代表の荒木永子さんです。

 

 

 

 

縁からつながる手まりとの出会い

手まりの歴史は1300年前までさかのぼります。奈良時代に中国から渡来した手まりは、蹴鞠(けまり)として貴族の遊戯道具となり、江戸時代には色とりどりの絹糸でつくられ、お姫さまの玩具となりました。

 

 

やがて庶民の間にも広がり、各地で工夫を凝らした手まりが子どもたちの遊び相手として親しまれるようになりましたが、ゴムまりの登場とともにその姿を消していきました。

 

 

永子さんが手まりに出会ったのは、彫金を学んでいた20代前半のころ。四国の郷土研究をする荒木計雄さんを訪ねて、計雄さんが館長をつとめる「讃岐習俗参考館」に会いに行ったことがはじまりです。

 

 

永子さんは、日本各地の生活工芸品や民芸品を慈しむ空間と計雄さんの話に惹きこまれ、何度もその場所へ通うようになったのだそう。なかでも心惹かれたのは、計雄さんの妻・八重子さんがお茶室でこしらえる「讃岐かがり手まり」でした。

 

 

荒木夫妻は、作り手のいなくなった消えゆく讃岐かがり手まりの文化を繫ぎ止めるため、昭和58年に「讃岐かがり手まり保存会」を設立。八重子さんが讃岐に伝わる伝統の手まりをつくり、保存する活動を行っていました。

 

そのときはじめて“手まり”というものを目にしました。色とりどりのやさしげな糸を並べて、美しい模様にかがっていく様子がすごく素敵だったことを今でもよく覚えています。

 

その後、縁がありご子息と結婚し、荒木家の一員となった永子さんは、彫金の仕事をするかたわら、義母・八重子さんの手まりづくりを手伝うようになりました。

 

 

消えゆく美しい文化を守り、伝えていく

永子さんは義母の手まりづくりを手伝う時間はとても愉しかったと振り返ります。

 

やればやるほど、手まりの奥深さに魅了されました。こうしたらもっと素敵なものとして見てもらえるんじゃないか、もっと喜んでもらえるんじゃないかと考えることがとにかく愉しかったんです。

 

40歳で彫金の仕事から離れ、本格的に手まりづくりに専念。義両親が他界したあとも、その遺志を引き継ぎ、今につないでいます。

 

 

永子さんの代になり変化したことは、文化を保存するだけでなく、多くの人に伝え広げていくこと。プロの作り手養成講座を開催し、基本の技術を身につけた表現力のあるプロの育成を行なっています。

 

 

 

 

伝統の技法を守ることを重んじ、5年間は基本の作り方を忠実に再現することから始め、自由に表現を愉しめるようになるのは十数年かかるのだそう。

 

 

今や讃岐かがり手まりの作り手は120名ほど。いったんは途絶えかかった手しごとは、地元の女性たちに愛され、大切に受け継がれているのです。

 

手まりは深い世界ですが、入り口は広い方がいいと思っているんです。伝統を守るだけでなく、若い人たちにも新鮮で魅力的なものとして手まりの魅力を知ってもらいたいです。

 

と話す永子さん。見るだけでなく、日常の中で親しんでほしいとの想いから、お香の入った小さな手まり「香手まり」をつくるなど、新しいお香の楽しみ方も提案しています。

 

 

 

 

自然の恵みから生まれる伝統の手まり

「讃岐かがり手まり」には、大切に守り続けていることがあります。

 

 

1つは、木綿糸を使うこと。

 

 

香川県が「讃岐の国」と呼ばれていた江戸時代、砂糖・塩・木綿は「讃岐三白」と呼ばれた名産品でした。その木綿糸を使うため、讃岐かがり手まり独特のやさしい風合いが生まれます。

 

 

製造する地元の綿工場の廃業が続き、仕入先に困ったことがありますが、保存会では、全国で製造工場を探し、貴重な木綿糸を使い続けることを守り抜いています。

 

 

2つめは、木綿糸を草木で染めること。

 

 

木綿糸は草木で染め上げます。茜、藍、刈安、蘇芳(すおう)、栗、玉葱などの染材料や藍染した糸に刈安を重ね染めするなど、色彩豊かな糸は120種類以上にも及ぶのだそうです。

  

染め上げた糸は庭の物干し竿にざっと干して乾かします。それを眺めながら手まりをこしらえる時間が好きなんです。

 

と永子さん。

 

 

 

 

3つめは、芯にもみ殻を使うこと。

 

 

讃岐かがり手まりは、もみ殻を薄紙で包み、木綿糸で巻いたものを芯にしています。手の感覚だけで球体にしていく作業は難易度が高く、根気のいる作業。発泡スチロールを土台として使用する手まりが多いなか、見えない細部にまで伝統を受け継ぐ意志を貫きます。

 

 

そして最後の4つめは、手でかがること。伝統のかがり技法で模様を描きます

 

 

地球に見立てた手まりを、北極、南極、赤道と分けて糸を渡し、「地割り線」を目安に、糸をかけながら季節や感性に合わせて模様をかがっていきます。

 

 

土台に地割り線といわれる案内線を引いただけの手まり

  

 

模様は伝統模様を再現したり、アレンジしたりしてつくることもあります。かがり技法では、線から線へ糸を渡しながら模様をつくるので、刺繍と違って自由はありません。その不自由のなかで、どれだけ深い表現ができるか、そのせめぎ合いが面白いんです。

 

讃岐かがり手まりは受け継がれてきた伝統を大切に、手から手へとつなげてきました。

 

 

包むようにやさしくこしらえた手まりには、手しごとにしか表現できない温もりと豊かさが宿ります。色とりどりの美しい手まりの伝統は、新しい魅力となって今に息づいています。